お盆休みに田舎に帰った時に、
母方の伯父が老人性の痴呆症になったと言う話を聞きました。
実際に会いに行ってみましたが、昔通りの優しいおじさんでした。
でもやはり、話の端々にさっきした話が何度か出て来ていました。
そんな伯父が、知人の家に伯母と一緒に訪ねて行った時の話を聞きました。
暑いところを良く来てくれて…ということで、
スイカを出してくれたそうです。
伯父はもともと、子どもの頃からスイカが大嫌いでした。
知人はそのことを知らなかったんですね。
精一杯のおもてなしのつもりで、スイカを出したんですね。
伯母は、絶対に食べないと思ったそうです。
ところがどうしたことか、伯父は、とてもうまそうに食べたんです。
これには伯母もびっくりしました。
その日、家に帰ってから夕食を食べて、
テレビを見ながらゆっくりしていた時、
伯父は思い出したようにしみじみと言いました。
「今日、出してもらったトマトは、とてもおいしいトマトだったなあ。」
そんな伯父は、惚けちゃって困ったなあと言われながらも、
みんなに大切にされ、子や孫やひ孫に慕われ、しあわせな老後を送っています。
ところで、屋根屋をしていると、
屋根の上からとんでもないものを見ることがあります。
もう15年ほど前、ある農家の大きな屋根を葺き替えている時に、
こんなことがありました。
その農家のお隣に、広い庭をはさんで別のお宅がありました。
時たま家の前で、その家の奥さんとすれ違いましたが、
にこやかに挨拶をしてくれるふつうの奥さんでした。
ところがある日、屋根の上で仕事をしていると、
その家の裏庭から罵声が聞こえてきました。
「このばばぁ!またこぼしやがって!しっかり食べろ、このごくつぶし!」
「食べられんのか?なら、さっさと死ね!!」
「ガシャーン」という何か壊れる音…。
そのお宅には、おばあさんがいたんですね。
罵声の主は、あの奥さんでした。
介護虐待。
あの時はまだそんな言葉も知らなかったんですが…。
もしも将来惚けるなら、
願わくば、
伯父のように、しあわせに惚けたいなと思います。