【屋根の耐震】地震で棟の崩壊を防ぐ棟芯材入り施工で棟積み替え・棟換気付

先月、当店ご近所の京都市左京区八瀬のあるお宅で、築30年以上のお宅の屋根の棟から雨漏りした事例がありました。原因は、長年の湿気で棟土が風化して痩せてしまい、棟の熨斗瓦がへたり込んで、雨水が棟内部に流れ込む状況となってしまったことでした。

湿気によって棟土がぼろぼろになった様子
湿気によって棟土がぼろぼろになった様子

瓦自体は三州の陶器瓦でかなり固いものを使用してあり、京都市中心部から比べると3度から5度も気温が低くなる八瀬でも、一部を除きほとんど凍害による被害は受けていません。ということで、その一部の瓦のみ取り替えて、棟を耐水性の高いシリコン入り南蛮漆喰を使って積み直しました。

パウター状態になってしまった棟土の様子
棟土はすでにパウター状態で内部まで湿っています

内部まで雨水が浸透してしまい、形は保っているものの瓦をめくるともはや棟土はパウダー状態に風化してしまっています。この土ではとうてい熨斗瓦を最初の角度で保持し続けることはできず、熨斗瓦はへたっていきます。すると、内部まで雨水を引き込んでしまうんですね。今回は、その棟内部に流れ込んだ雨水が雨漏りの原因でした。

棟積み替えの下地・棟換気・棟芯材を施工した様子
棟積み替えの下地・棟換気・棟芯材を施工した様子

で、棟土を撤去して棟下に下葺き材を追加。瓦をひっかけてステンレス釘で固定するための瓦桟木も、棟際から2本は流れ込んだ長年の雨水の影響でぼろぼろでしたから、湿気に強く高耐久性の合成木に変更。小屋裏の湿気を棟部分から屋外に輩出するための棟換気口「アンダーベンツ」も新たに設置しました。そして、耐震のための棟芯材も仕込んで、この上に新たに棟を積んでいきます。

特に八瀬は市内よりも湿気が高いこともあって、どうしても土を土台にして積んだ棟は、このようなことになりやすいのですね。再びこうなってもいけませんから、耐水性能のあるシリコン入りの南蛮漆喰「シルガード」を棟土として利用しました。

「南蛮漆喰」とは、油が混入され耐水性を増した漆喰のことです。これ自体は古くからあるようですが、現代では油の代わりに撥水性能が高いシリコンなどを混入したものが工場で練られています。工場からは一本25㎏前後で密封袋詰めされて出荷され、それを現場で開封して利用します。

ちなみ当店では和瓦で棟を積む場合、今回のような修繕での積み替え・積み直しも含め、棟土はすべて南蛮漆喰を使っています。これは、湿気に強くて長持ちするということ以外にも、地震や台風・豪雨などの災害への耐力が断然高いことも理由です。こうすることで、葺いた私たちも安心ですし、もちろんお客さんの財産も長く安全に保たれます。

南蛮漆喰を使って積んでいる途中の様子
南蛮漆喰を使って積んでいる途中の様子。熨斗瓦は向かい同士を内側でステンレス線でくくり合わせています。

ただし、値段はやっぱり練り土よりも高くて、一本あたりの値段は2倍以上。つまりここが、工事価格の差になる部分ですね。激安店は、こういうところをケチって、安く仕上げます。仕上がり状態だけでは下から見たら全くわかりませんしね。まさに、安物買いのゼニ失い状態になってしまう訳です。当店はいつも言う通りに、安売り店ではなくて標準的な価格の店ですが、こういう後からわからないところはちゃんときっちりするというポリシーでしております。

冠瓦を棟芯に固定するための瓦用パッキン付ステンレスビス
冠瓦を棟芯に固定するための瓦用パッキン付ステンレスビス

棟の一番上の瓦、この現場では大屋根が6寸紐丸瓦、下屋根が丸桟冠瓦でしたが、これをパッキン付ステンレスビスで棟芯材に固定して工事終了。完成です。

あ、ちなみにこの耐震仕様の棟ですが、八瀬地域においては、耐震以上に獣害対策という側面もあるんです。冬場、越冬のために棟の瓦の中に虫が入り込むんですが、深刻な獣害を八瀬地域にもたらしている猿が、それを食べようと棟の瓦をめくっちゃうんですよね。当然、食べた後は食べっぱなしで、元のところに瓦を戻したりしてくれません。この耐震仕様にすると、猿もめくれないので、安心です。

ところで、当店で使っている棟芯材はポリエチレンテレフタレート樹脂製の合成木です。平たく言うと、ペットボトルの再生樹脂です。と言う訳で、これ自体は現代のものなのですが、棟に芯を入れて耐震にするという思想は、実は古くからある伝統的な考えなんですね。この続きは明日にでも…。

棟積み直し完成
棟積み直し完成

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